福岡高等裁判所宮崎支部 昭和26年(う)222号 判決
原判決で認定した奄美大島、沖縄等が本件犯罪当時果して日本国の領土に属していたか否かの点について按ずるに、カイロ宣言によれば、連合国の目的は、日本国より一九一四年の第一次世界戦争の開始以後において日本国が取得した太平洋における一切の島嶼を剥奪し、満洲、台湾、澎湖島等日本国が清国から奪取した一切の地域を中華民国に返還することにあつて、奄美大島沖縄等古くより日本国領土として認められていた地域はカイロ宣言中日本国から剥奪する対象となつていなかつたものであるが、その後発せられた降伏文書において日本国が全面的に受諾することになつたポツダム宣言第八条によると、カイロ宣言の条項は履行せらるべく、又、日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並に吾等の決定する諸小島に局限せらるべしとあつて、日本国の主権の及ぶ範囲は、本州、北海道、九州及び四国並に連合国の決定する諸小島に限界がおかれたことが認められる。しからば、右の日本国の主権の及ぶいわゆる諸小島の限界がその後決定せられたものであるか否かについて考えると一九四六年一月二九日附連合国最高司令官から発せられた指令若干の外郭地域の日本からの政治上及び行政上の分離第三条によれば日本国は北緯三〇度以南の南西諸島(口ノ島を含む)は政治上又は行政上の権力を行使すること及び行使しようと企てることが総て停止せしめられたのであるが、右の指令はポツダム宣言第八条にある小島嶼の最後的決定をなすものでないことは同指令第六条に明記せられているところであつて、日本国に帰属すべき小島嶼に関しいわゆる最終的決定がなされていないことは明らかである。尤も右南西諸島に対して日本国の政治上行政上の権力が行使できないことは勿論であるが、当時日本国と連合国とは戦争状態の終了しない状態にあつたのであり戦時占領下において行政上、政治上の権力の行使を停止或は制限せられることがあるのは戦時国際公法の原則から云つても己を得ないことであつて、これがためその地域が直ちに、日本国の領有から離脱したものとは認められない。しかして南西諸島の帰属については、昭和二十七年四月二十八日、日本国との平和条約第三条において、日本国は北緯二十九度以南の南西諸島―中略―を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意すると規定せられ、同諸島の帰属に対する一応の意思が決定せられたのであつて、以上の観点からすると、原判決当時その帰属について最後的決定がなされていない旨認定し、南西諸島はなお日本の領土即ち刑法にいわゆる内国と認めたことは相当であつて原判示の事実につき刑法第一六章所定の各条を適用したことに何等違法の点はない。結局原判決には所論の点について事実を誤認した違法も、法律の適用を誤つた違法もないから論旨はいずれも採容することができない。